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第2話|相対的に、下がっていっただけの話

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中学3年になると、 教室の空気が、少し変わった。

それまでと同じ学校、 同じ友達なのに、 どこか張りつめた感じがあった。

周囲が、一気に受験モードに入ったのだと思う。

僕自身は、 急に何かができなくなったわけでも、 勉強を投げ出したわけでもなかった。

ただ、周りがぐんぐん伸びていく中で、 相対的に、 自分の立ち位置が下がっていった。

成績が下がった、というより、 「評価」が下がった、 そんな感覚に近かった。

第一志望として考えていた進学校は、 いつの間にか、現実的な選択肢ではなくなっていた。

内申点が、足りなかった。

今思えば、 自分の学力そのものが、 大きく落ちたわけではない。

ただ、 周囲が必死に追い込みをかけ、 努力の量を一気に増やした中で、 僕は、どこかマイペースだった。

結果として、 相対的に、評価が下がった。

それだけのことだったのだと思う。

でも、当時の僕にとっては、 それを冷静に受け止める余裕はなかった。

第一志望を断念することになったとき、 僕は、周囲に本音をさらしたくなかった。

悔しかったし、 正直、少し恥ずかしかった。

だから、 「サッカーをやりたいから、 一つランクを下げた高校を受けるんだ」

そんなふうに、虚勢を張った。

半分は嘘で、 半分は本音だった。

サッカーが好きだったことは事実だし、 強い環境でやりたい気持ちも、確かにあった。

でも、 本当は、 第一志望に届かなかった自分を、 そのまま見せる勇気がなかったのだと思う。

今なら、 そんな虚勢を張らなくてもいいじゃないか、 と思える。

でも、 あのときの僕には、 そうするしかなかった。

中学2年のときの担任と、 進路について話す機会があった。

先生は、 僕の現実を、はっきりと言葉にした。

「この内申点では、 第一志望はもちろん難しい。 君が考えている、その次の高校も、 正直、厳しいかもしれない。 現実的には、 さらに一つ下の選択肢を考えたほうがいい。」

その言葉は、 当時の僕には、 到底、受け入れられなかった。

ショックだったし、 反発もした。

今なら分かる。

あの先生は、 僕を否定したかったわけではない。

むしろ、 傷つかないように、 安全な道を示そうとしてくれていたのだと思う。

でも、 当時の僕は、 そんなふうには受け取れなかった。

それでいい。

受け入れられなかったことも、 含めて、 あのときの僕だった。

中学3年では、 生徒会の役員にも立候補した。

会長ではなく、 健康委員長だった。

毎日、 全校生徒の前に立ち、 号令をかけ、 体操をする。

学校の課題を集め、 イベントを考え、 役割を調整する。

不思議と、 その時間は楽しかった。

人前に立つこと、 全体を見渡すこと、 誰かと誰かをつなぐこと。

「ああ、こういう役割は、 自分に合っているのかもしれない」そんな感覚が、芽生え始めた。

大人になってから、 思いがけず、 似たような役割を担うことになった。

40代になって、 組織の中で、 企画や運営を取りまとめる立場に就いた。

たまたま、前任者が異動になり、 その役を引き受けることになっただけだった。

でも、 やってみると、 不思議なほど、しっくりきた。

気がつけば、 その役割を、 4年連続で任されていた。

中学3年のとき、 健康委員長として感じていた、 あの感覚。

人をまとめ、 場を整え、 前に進める。

あれと、 よく似ていた。

中学3年のあの時代は、 僕にとって、 うまくいかなかった記憶として 残りがちだ。

でも今、振り返ると、 別の見え方もできる。

競争の物差しで見れば、 相対的に下がっていった時期だった。

けれど、 その中で、 自分に合う役割の輪郭は、 確かに見え始めていた。

競争社会は、 良いか悪いか、 単純に言えるものではない。

みんなが必死になれば、 全体の水準は上がる。

そうなれば、 評価は、 必然的に相対的なものになる。

それを知らなかっただけだ。

当時の僕は、 勝ち負けの物差ししか、 持っていなかった。

でも、 物差しは、 一つだけじゃなかった。

もし今、 頑張っているのに、 評価が伸びないと感じている人がいたら、 伝えたいことがある。

それは、 あなたが変わっていないから、 価値がないということではない、 ということだ。

ただ、 相対的に見た位置が、 変わっただけかもしれない。

そして、自分に合う役割は、 思いがけない形で、 何度も巡ってくる。

僕自身が、 そうだったように。

中学3年のあの頃、 僕は、 そんなこと、何も分かっていなかった。

でも、 分からないままでも、 人は、 ちゃんと前に進んでいる。

遠回りは、 あとから、 意味を持つ。

それは、第1話で書いたことと、 同じかもしれない。

ただ、 意味が見えるまでには、 少し時間がかかる。

それだけの話だ。

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