悔しかった。
本当に、悔しかった。
サッカー部から離れたとき、 頭の中はぐちゃぐちゃで、 自分が何をしているのか、 正直、よく分かっていなかった。
ただ、 このままではいられない、 それだけは、はっきりしていた。
きっかけは、 高2のある日の、部室での出来事だった。
新しく買ったばかりのサッカーシューズが、 消えていた。
誰がやったか、 分かっていた。
でも、問いただすことはしなかった。
できなかった、のかもしれない。
そのとき、 心の中で、何かが切れた気がした。
サッカーは、好きだった。
今でも、好きだ。
でも、 あの場所にいることが、 少しずつ、 自分を削っていく感覚があった。
技術や体力の問題だけではなかった。
理不尽な上下関係。
暴力や暴言。
自信のなさにつけ込むような扱い。
囲まれたとき、 何もできなかった。
情けなかった。 悔しかった。
今でも、 思い出すだけで、 胸の奥がざわつく。
そんな中で、 僕の身体は、 相変わらず、言うことをきかなかった。
肝心な瞬間に、 身体が一瞬、動かなくなる。
誰にも言っていなかった。
親にも。
ある日、 意を決して、 監督にだけ、打ち明けた。
「身体の動きに、 何か問題があるのかもしれないな」
そう言われた言葉が、 頭の中に残った。
高2から、 コース選択があった。
理系、文系、就職。
僕は、迷わず理系を選んだ。
教員になりたいという気持ちは、 部活の激動の中で、 少し奥に引っ込んでいたけれど、 数学、物理、英語は、 確かに得意だった。
その三科目と体育だけなら、 学校の中でも、 上位だったと思う。
でも、 自己肯定感は、 静かに下がっていっていた。
部活に行かなくなって、 数日が過ぎた。
そのタイミングで、 衝動的に、 坊主頭にした。
理由は、 うまく説明できない。
けじめをつけたかったのか。
変わりたかったのか。
精神的に、 切り離したかったのか。
たぶん、全部だった。
サッカー部を、 辞めたわけではない。
「離れる」という形を選んだ。
監督は、 慰留してくれた。
でも、 もう戻れないと、 自分では分かっていた。
浮遊しているような感覚だった。
何も考えていなかったのかもしれない。
ただ、 「もう、いい」 そう思った。
その後、 柔道部の体験に参加した。
身体を、 強くしたかった。
あのときは、 言葉にできなかったけれど、 今思えば、抵抗できる自分になりたかったのだと思う。
現実は、甘くなかった。
柔道部員には、 まったく太刀打ちできなかった。
何もできなかった。
気づけば、 そこからも、 それとなく離れていった。
その後、 病院に行った。
初めて、 親にも、 身体のことを話した。
検査をした。
原因は、分からなかった。
「心理的な影響も、 あるかもしれない」そう言われた。
薬が処方された。
副作用が怖かった。
正直、嫌だった。
それでも、 飲み続けてみた。
すると、 あれほど悩まされていた、 身体が一瞬止まる感覚は、 なくなっていった。
あのとき、 自分は、 壊れきる一歩手前だったのだと思う。
強くなろうとしていたわけでも、 賢くなろうとしていたわけでもない。
ただ、 これ以上、 自分が壊れないように、 一度、立ち止まった。
それだけだった。
今なら、 あの選択を、 否定しない。
一休みが必要なときは、 誰にでもある。
離れることは、 逃げることとは違う。
守るために、 距離を取ることも、 生きる選択の一つだ。
サッカーは、 その後も、 続いている。
不思議なものだ。
あのとき、 完全に手放さなかったからこそ、 今も、続いているのかもしれない。
サッカー部を離れ、 柔道部からも距離を置き、 気づけば、 高校3年生を迎えていた。
あの頃の自分は、 何者でもなく、 どこにも属していないような感覚だった。
でも、 立ち止まったからこそ、 次に進むための余白が、 生まれたのだと思う。