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第4話|一度、立ち止まるしかなかった

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悔しかった。

本当に、悔しかった。

サッカー部から離れたとき、 頭の中はぐちゃぐちゃで、 自分が何をしているのか、 正直、よく分かっていなかった。

ただ、 このままではいられない、 それだけは、はっきりしていた。

きっかけは、 高2のある日の、部室での出来事だった。

新しく買ったばかりのサッカーシューズが、 消えていた。

誰がやったか、 分かっていた。

でも、問いただすことはしなかった。

できなかった、のかもしれない。

そのとき、 心の中で、何かが切れた気がした。

サッカーは、好きだった。

今でも、好きだ。

でも、 あの場所にいることが、 少しずつ、 自分を削っていく感覚があった。

技術や体力の問題だけではなかった。

理不尽な上下関係。

暴力や暴言。

自信のなさにつけ込むような扱い。

囲まれたとき、 何もできなかった。

情けなかった。 悔しかった。

今でも、 思い出すだけで、 胸の奥がざわつく。

そんな中で、 僕の身体は、 相変わらず、言うことをきかなかった。

肝心な瞬間に、 身体が一瞬、動かなくなる。

誰にも言っていなかった。

親にも。

ある日、 意を決して、 監督にだけ、打ち明けた。

「身体の動きに、 何か問題があるのかもしれないな」

そう言われた言葉が、 頭の中に残った。

高2から、 コース選択があった。

理系、文系、就職。

僕は、迷わず理系を選んだ。

教員になりたいという気持ちは、 部活の激動の中で、 少し奥に引っ込んでいたけれど、 数学、物理、英語は、 確かに得意だった。

その三科目と体育だけなら、 学校の中でも、 上位だったと思う。

でも、 自己肯定感は、 静かに下がっていっていた。

部活に行かなくなって、 数日が過ぎた。

そのタイミングで、 衝動的に、 坊主頭にした。

理由は、 うまく説明できない。

けじめをつけたかったのか。

変わりたかったのか。

精神的に、 切り離したかったのか。

たぶん、全部だった。

サッカー部を、 辞めたわけではない。

「離れる」という形を選んだ。

監督は、 慰留してくれた。

でも、 もう戻れないと、 自分では分かっていた。

浮遊しているような感覚だった。

何も考えていなかったのかもしれない。

ただ、 「もう、いい」 そう思った。

その後、 柔道部の体験に参加した。

身体を、 強くしたかった。

あのときは、 言葉にできなかったけれど、 今思えば、抵抗できる自分になりたかったのだと思う。

現実は、甘くなかった。

柔道部員には、 まったく太刀打ちできなかった。

何もできなかった。

気づけば、 そこからも、 それとなく離れていった。

その後、 病院に行った。

初めて、 親にも、 身体のことを話した。

検査をした。

原因は、分からなかった。

「心理的な影響も、 あるかもしれない」そう言われた。

薬が処方された。

副作用が怖かった。

正直、嫌だった。

それでも、 飲み続けてみた。

すると、 あれほど悩まされていた、 身体が一瞬止まる感覚は、 なくなっていった。

あのとき、 自分は、 壊れきる一歩手前だったのだと思う。

強くなろうとしていたわけでも、 賢くなろうとしていたわけでもない。

ただ、 これ以上、 自分が壊れないように、 一度、立ち止まった。

それだけだった。

今なら、 あの選択を、 否定しない。

一休みが必要なときは、 誰にでもある。

離れることは、 逃げることとは違う。

守るために、 距離を取ることも、 生きる選択の一つだ。

サッカーは、 その後も、 続いている。

不思議なものだ。

あのとき、 完全に手放さなかったからこそ、 今も、続いているのかもしれない。

サッカー部を離れ、 柔道部からも距離を置き、 気づけば、 高校3年生を迎えていた。

あの頃の自分は、 何者でもなく、 どこにも属していないような感覚だった。

でも、 立ち止まったからこそ、 次に進むための余白が、 生まれたのだと思う。

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