はじめに
絵本作家・かこさとしさんは、生涯を通じて「こどもたちのために」という揺るぎない信念を貫きました。
その理念は驚くほどシンプルでありながら、大きな力を持っています。
戦争を経験し、終戦直後に見た大人たちの変わり身──それは、若きかこさんに危機感を与えました。
だからこそ、大人に染まる前の純粋な感性を持つ子どもたちに、未来を託そうと決意します。
科学の不思議や物語の面白さを、丁寧に、誠実に届け続けたのです。

私はこの番組を通じて、「大切な誰かのために、何かを成し遂げたい」という思いを持つと、人はどれほど強くなれる
かを改めて感じました。
仕事も同じです。
大切な誰かのため、チームのため、社会のためという確かな軸があれば、人は思いもよらぬ大きな力を発揮します。
かこさんの生き方は、日々のはたらき方に通じるヒントを、私たちに示してくれました。
※出典:NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』「ただ、こどもたちのために かこさとし 最後の記録」(放送日:2018年6月4日)
※番組内容の引用は著作権法に基づき最小限の範囲で行っております。
未来は子どもたちに託す
かこさんの原点は、19歳の夏、終戦の瞬間にありました。
戦時中、国のためと信じ、軍人を志したものの、視力の問題で断念。
しかし、多くの友人が戦地で命を落としていきました。
戦後、かこさんを驚かせたのは、戦争を肯定していた大人たちが手のひらを返し、「自分は反対だった」と平然と語る
姿でした。
そんな大人たちを目にし、「自分も同罪」と深く自省します。
そして、大人に染まらない子どもたちに未来を託そうと心に誓いました。

絵や物語は、単なる娯楽ではなく、子どもたちが自ら考え、選び取る力を育むための手段
──その強い決意は、晩年まで揺らぐことはありませんでした。
子どもを侮らず、丹念に届ける
かこさとしさんの絵本には、細部まで緻密に描き込まれた絵と、練り上げられた物語があります。
それは、子どもたちを「最も厳しい読者」として真剣に向き合ってきた証です。
子どもは物事をすみずみまで観察し、わずかなごまかしも見抜く

──だからこそ、かこさんは一切の妥協を許しませんでした。
科学の絵本では専門用語を控えて、初めてふれる子どもにもわかるよう、何度も文章を作り直す。
子どもの反応は正直だからこそ、心から面白いと感じてもらえる本を届けたい。
その信念が、500冊以上の作品を生み出す原動力となりました。
私はこの姿勢に、仕事における品質への誠実さを感じました。

真剣に向き合うことでこそ、子どもの心を動かす成果が生まれるのだと思います。
ただ、こどもたちのために
かこさとしさんの生涯を貫いたのは、「ただ、こどもたちのために」という揺るぎない信念でした。
ターゲットを明確にし、子どもの感性に敬意を払い続け、科学や物語を丹念に描き込むことで、真っすぐに未来へメッ
セージを届ける。
その理念は生涯一度もぶれることなく、最期の瞬間まで続きました。
「大切な誰かのために」という明確な目的を持ったとき、人は想像以上の力を発揮します。
それは日々の仕事にも通じます。
組織やチームが「大切な誰かのために」という共通の目的を共有できれば、個々の力が掛け算となり
もっと大きな成果を生み出すことができます。
あなたが届けたい相手を思い描きながら歩み続ければ、その想いは必ず未来へと届きます。
結城一郎